存在位置


1つ1つ色付いてくる世界が見え、
ゆっくりと瞼を開ければ、
スズメの鳴き声が聞こえる中、何時もと違う音が耳に入り首を動かした。

規則正しい寝息と気持ち良さそうな寝顔。

ぼやけて見える世界を直す為、ネガメをかけ
もう1度見直せば黒い猫が寝ている姿が見えた。

夢では無かったか・・・

時折動く耳を眺め、手を伸ばし頭を撫ぜ
ベットから離れ、タンスの上に置かれている制服を着、
洗面所で身なりを整え、再び自室へと戻り



寝ている黒猫に声をかける。



声だけでは気付かないのか、
今度は、布団の上から手を乗せ



軽く揺すりながら声をかけるが反応が無く、



左右に動かしていた手を今度は上下に動かし、
力を抑え叩いてみる。

「・・・ん」

今まで反応を見せなかったの声に、ため息を落とし、



強めに叩けば

「あと・・5分だけぇ・・」

もぞもぞと動き、布団の中に顔を隠してしまうと、
くぐもった声が聞こえ、溜め息を付き

「5分寝ても、今、起きてもかわらないぞ。
 起きたらどうだ?」

小さな山の様に膨らんだ場所に話し掛けるも、
もぞもぞと動くだけで声の返事は無く、
3度目の溜め息の後、

「解った。
 朝食を食べたら起しに来る。
 それまで寝ていると良い」

ポンと1回だけ叩き、小山に背を向けた時、

「朝ゴハン!?」

突然の大きな声に、驚き動きを止めれば、

「食べる。
 食べるから待って!」

ゴソゴソとした音の後、足元から気配を感じ視線を動かせば
黒猫が見上げていた。

「起きたか」

膝を折り、顔を近づければ

「お早うございます。手塚くん」

恥ずかしそうに、はにかみながら挨拶され

「おはよう」

返事を返し、

「朝食に行くぞ」

誘い、頷く姿を見た後、
立ち上がり足を動かす。

が、

「待って、手塚くん」

言葉で引き止められ、

「あのね・・顔を洗いたいの」

視線を少し逸らされながらの言葉に

「コッチだ」

進路を変更してキッチンから洗面所へと連れて行いく。

蛇口に手乗せようと体と手を伸ばすが、
蛇口どころか、ドコにも手が届かず、空を切る手の動きと必死な姿に
穏やかな気持ちになるが、
何時までも見ている訳にも行かず、
片手で抱き上げ、蛇口を捻り水を出してやる。

「ありがとう・・」

呟く様に小さな声に頷き、流れる水に手が伸ばされ
肉球を濡らし流れてゆく。

手に水を溜める事が出来ず、濡れた手で顔を洗うが、
納得出来ないのか何度も何度も繰り返す。

やれやれ・・

フッと息も吐き

「目を閉じていろ」

自分の手の中に水を溜め顔に流してやる。

数度繰り返せば、両手で顔を洗い

「ふぅ・・さっぱりしたぁ」

毛先から水をしたたせながらも、微笑み、
鏡に映る顔を眺めている姿に
アニメに出てくるネコの姿を思い出し、
鏡に映るの姿を眺めていれば、

「手塚くん?」

鏡に映る目で手塚が見、首を傾げる姿に、タオルを手渡し
拭いた確認した後、

「行くぞ」

を抱き上げ、キッチンへと足を進めれば、
家族全員が席に座っており、

「遅くなりました」

断りを入れ、自分の席に座りを膝の上に乗せ、
手を合わせたのち箸を握った。

白米に魚の干物
ダシ巻き卵とワカメの味噌汁。

代わらぬ朝食を食べながら、視線を膝の上に動かせば、
両手でおむすび掴み、嬉しそうに食べている姿に昨日の夜の事を思い出す。

箸でマグロの切り身を渡せば、
嬉しそうに両手で挟み器用に食べている姿に驚くが、
段々面白くなり次々に渡し食べる姿を見ていた。

器用だな・・・

昨日と同じ感想を思えば、

ちゃん、味はどうかしら?」

いつもの笑みでの問い掛けに、顔を上げ、

「美味しいです」

笑顔で答えた言葉に

「そう?
 良かったわ」

交わされた言葉にほほえましく見ながら、
の空になった手に新しいおにぎりを乗せた。

「ありがとう」

手塚には小さなおにぎりも、にとっては大きなおにぎりになり、
美味しそうに食べる姿を見続け、

「ご馳走様でした」

手を合わせた後、ベタつくのか、手の平を付けたり離したりし、
顔をしかめるのを眺め、机の上に視線を走らせれば、
おしぼりを見つけ手を拭いてやる。

「逃げるな・・・」

驚いたのか、慌て手を引く姿に注意し、
握る力を強め隅々まで綺麗に拭き取れば、

「あ・・ありがとう」

戸惑い呆然とした感じの声で礼を言われ、
たいした事では無いと頷き、を膝から下ろし、
手塚も席を立ち、食器を流し台へと運び

「行ってきます」

玄関、挨拶をすれば
母とが声を揃え

「行ってらっしゃい」

と、返され学校へと向かった。

毎日繰り返す、

部活の朝錬

学校の授業

生徒会の仕事

部長としての仕事

限られた時間の中で、効率良くこなし
空いた時間を授業の予習復習に使う。

自分の席で、ノートと教科書を広げるが、
頭の片隅には、ネコの姿のままのの事があった。

不便はしていないだろうか?

困っていないだろうか?

昼は食べただろうか?

家に居て、母やお爺さんが居て、
困る事も不便な事も無いはずなのだか
心配の種は尽きる事無く、浮かんでくる。

「何か心配事でもあるの?」

突然の声に驚くも

「どうしてだ?」

視線を上げ、声の主の顔を見れば

「朝からソワソワして落ち着かないみたいだから」

大石が心配しすぎてオロオロしてたしね。

心配という表情ではなく、
好奇心が抑えきれなくなった笑顔があり

「不二、心配しているならそういう表情をしたらどうだ」

溜め息と共に言葉を返すが、

「心外だな。
 凄く心配してるよ」

なんせ、今日の練習メニューに関わってきそうだからね。

相手の笑顔と言葉は1枚も2枚の上手で、
自分の言葉の攻撃などサラリと交わされてしまい、
溜め息を付くしかなかった。

「何でもない」

ようやく出した言葉に

「そう?
 そうは見えないけどね」

穏やかな笑顔で返され、

そんなに顔に出ていただろうか・・・

眉間に皺を寄せ黙っていれば、

「2年間、毎日に様に顔を合わせていれば
 大石だけじゃなくても、小さな事でも気が付くよ」

告げられた言葉に、納得をしてしまうが、
それでも

「たいした事ではない。
 心配をかけてすまなかったな」

のことを言うのを躊躇い、
これ以上詮索されない為に言葉を切れば

「・・・解った」

頷き、

「じゃ、放課後」

手を振り、教室から出て行く姿を見送り
手元に広がる教科書へと視線を動かすが、
始まりを告げるチャイムが鳴り、教師の入室に
日直の声が掛かり、席から立ち、1礼後、
再び、日直の言葉で席に座った。

聞こえてくる言葉を書かれる黒板の文字を写し、
代わりの無い授業を受けるも

の座り・・
アレはネコと言うより人と同じ座り方だな。

動物の様に手を付き据わるのではなく
人間の様に腰で座り手を使い食事をしていた。

なるほど。
だから、足を揺らしていたのか。

子供の様に足を揺らして食べる姿に
不自然さが無かった。

ネコに見えるが、中身は人間と言う事だな。

改めて、人間であった事を実感し納得する。

それにしても・・・
外に出て迷子になっていないだろうか・・・

授業の終了と共に
心配は増え続けた。

心配と大丈夫を繰り返し、授業を終え
生徒会室へと立ち寄り、遅れ部活へ顔を出せば

「遅かったね、手塚」

好奇心溢れる笑顔で不二に声をかけられ

「生徒会の仕事があったからな」

事実のまま話をすれば

「お疲れ様」

労わりの言葉に

「ああ」

返事を返し

「大石!」

今までの時間を仕切ってくれていた大石を呼び
どこまで進んだのかを聞き次の指示をだす。

1年の素振りをみたり
2年同士の打ち合い
レギュラー同士の試合を終わらせ

何時もと変わらない時間に終了の声をかけた。

「お疲れ様」

何人かの声が聞こえ、
何時ものように部室に残るのはレギュラー陣だけになり
他愛の無い話に盛り上がる中、
部誌を書き上げ、

「大石、すまないがカギを頼んでいいか?」

一緒に部誌を仕上げていた大石に声をかければ

「あぁ」

頷き、了解の返事を聞いた後
外へ出ようとドアノブの手をかけるが

「手塚、職員室へ用事があるから
 ついでに部誌を届けておくよ」

付け加えられた大石の言葉に頷き
カバンだけを持ち外へと出た。

夏へと変わり始めている季節でも夜になると
肌寒く、フッと夜空を見上げ
止まってしまった足を動かしバスへと向かう。

「何時もより早足なのが気になるよね」

「あぁ、今日の態度と言い、何かあるな」

「やっぱり乾も気付いてたんだ」

「まぁな・・」

好奇心の眼が手塚の後ろ姿を見つめる中

「おいおい2人共・・・」

苦笑をしながら、そんな3人を見ている大石の姿に
不思議そうに眺めている他のメンバーが居た事など
気が付かず、家路を急いだ。

暗くなり、街灯が照らす道を歩き
家へと着けば

「ただいま帰りました」

帰ったことを告げれば

「お帰りなさい」

微笑みながら母親に出迎えられ

「帰りなさい、手塚くん」

母親の足元からの声が聞き
クツを脱ぎ自室へと歩く足元にが着いてきており
歩く姿を見てアル事を思う

やはり、首輪を付けた方がいいのか?